<2004.7.10> 狡猾に舞
・・・曇り後雨・・・

ガツン! ここぞと呉れた大合せと同時に 奴は

一気に発泡下向け引き込まんとする、 歴戦の

勇者は 水勢を味方にする事で 事態を有利に

運ばんと判断したのだろうか?

左手を竿に添え腰を下ろすと やや強引に突進を

止めた 其のままで僅かな膠着時間は 舞台の

幕開けを待つ観衆の如く 期待へ満ち溢れて行く

其の演目は きっと渓の珠玉が主役 狡猾の舞

先程から落ち始めた大粒の雨雫は バタバタと

菅笠を叩き出し始める。

ヒューッ! 短いラインの悲鳴を残し奴は 岩盤の

抉れた 左岸巻き込み向け突っ込む! ならばと

ひらき中程へと身を移し 竿とラインの持つ能力が

最高に生かせる位置取りへと立ち込んだ  何と

其処で奴は 無気力そうに浮いたではないか?

『おい何だってぇ そんなもんかよぉ?』 これで

終る等とは 到底思いもしなかったが つい罵倒

してしまう。

<このサイズの岩魚中心>

『さぁそろそろかぁ 行こうぜぇ』  バン! 飛沫を散らし水中へと消え あっという間に広いひらきへと飛び出すと

一気に流れに乗った このままではハリスが持ちそうに無い 竿を溜め魚に付くと バシャバシャと瀬を掛け下る

下段に構える淀みに入り込むと 底へ々と引き込み其処で一息付いた  逃走手段の模索でもしてるのだろうか?

握る竿に力を込め再開のゴングを鳴らし 奴にファイトを促すと 呼応するかの様に今降りて来た瀬に姿を現して

グイグイ遡って行く・・・・・! 何れ邪魔となるだろう水中の流木を 岸へと蹴り上げながら付いて行く 開けた深瀬を

右往左往滅茶苦茶な抵抗を始めた どうやら奴の余裕も此処までのものか?添えた左手を梃子に竿尻を前に押し

出すと奴は浮く半身の姿勢で浮いた しかし油断は出来ない・・  バン! 案の定私を視認すると 最後の力を

振り絞り水中へと没し 足元を物凄い速さで走り回る 立ち込む足を潜り抜けラインを巻きつけ逃走を図る事さえ

珍しくも無い 一発逆転を掛けた練者の抵抗 ならばと上段に翳した竿にも魚は浮かない 底へと貼り付き離れない

粘着テープを剥がすように 頭の方から徐々に

浮かし出すと 奴はイヤイヤをするかのように?

頭を振る そろ々これがもう最終章か・・・・。

奴の鼻先を 後方で待ち構える釣友向け引く

ゆっくりと導き 水中のタモへと向け ユラユラと

寄る! 寄る! 寄る! 終に入ったぁ

舞台は 呆気なく簡潔な幕切れと成った

気が付くと 雨脚は更に激しく周囲を叩きつけ

パチパチと激しく アンコールの拍手の様に


・・有り難う いいファイトだった。・・

                       oozeki